日本語ボランティア体験記:市民の役割と課題

はじめに

桜が満開に近づいている。私もすっかり芝園団地暮らしに慣れてきて、最近はもっぱら自治会の事務局でお手伝いをしている。団地の上層階から広い関東平野を見下ろすのが好きになって、身も心も軽やかになるべく春風を浴びている。

団地からの眺め


団地でのイベントにも顔を出すようになった。運営主体の異なる日本語ボランティア教室に二回参加したので、今回はそこでの体験を綴った上で、ボランティアの役割と課題を考察する。


芝園団地の日本語ボランティア教室について

(1)日曜日の教室

団地の中には川口市の運営する公民館があり、NPO法人川口国際交流クラブが毎週日曜日に日本語ボランティア教室を開いている。私が行った際には、受講者は25名程度で、団地の外から参加している人も見えた。最初は見学のつもりでお邪魔したものの、私も急遽ボランティアをすることになり、テーブルには4名の受講生が付いた。

全員が団地に住む中国人で、ITや翻訳の仕事をしている。この教室は日曜日に開かれているから、仕事を持っている人でも受講しやすいのだろう。私が担当した受講者の日本語力はまちまちで、簡単な挨拶を覚えたばかりの人もいれば、文章を読む分には問題ない人もいた。

それゆえ、私は全員のレベルに合った日本語の教材を見つけることができず、結局やさしい日常会話をすることとなった。やさしい日常会話といっても、ボランティアは分かりやすい話題を選び、受講者が話す機会を平等に持てるように注意しなければならないので、なかなか頭を使うことになる。


(2)月曜日の教室

また、3月からは団地内の集会所でも日本語教室が始まった。教室を主催するのは川口市の日本語ボランティア養成講座を修了した方で、時間帯は月曜日の午前中である。日曜日とは打ってかわって、20名の受講者の中では、子育て世代の中国人女性が目立ち、子どもを保育ボランティアに見てもらいつつ受講する人もいた。他にも、中国から一時的に孫の子育てを手伝いに来たと思われる、60代前後の中国人の姿もちらほら見えた。

私は失礼ながら事前の連絡なしで伺って見学を依頼したのだが、ここでもボランティアの方に付き添って日本語を教えることとなった。この教室では、受講者は日本語のレベルに応じて3段階に振り分けられており、私は初級のグループを担当することとなった。教室が用意したテキストを使いながら、「飲みます」「食べます」「話します」といった基本的な動作を表す言葉を、イラストやジェスチャーに頼りつつ受講者に繰り返してもらった。

授業が終わると、受講者は買い物や銀行といった生活シーンが書かれたリストを受け取り、自分が学びたい状況を選んでボランティアに提出する。あとでボランティアを指導している方から伺ったが、この教室では文法よりも受講者の生活ニーズを重視して日本語を教えているという。


ボランティアの役割と今後の課題

日本語教室に行く度に感じたのは、運営者やボランティアの熱意である。あるボランティアの方と少しばかりお話ししたとき、「相手の方が分かって下さると、とても嬉しくて」と仰っていたのが印象的だった。このように真摯な方がいる限り、多くの受講者が日本語を学び、生活の場で実践する喜びに触れることができるに違いない。

しかし、外国人が日本での生活に適応する鍵となる日本語学習を、今後もボランティアだけに頼ることはできない。その理由は三つある。一つ目は、日本語の学習支援を必要とする外国人は今後も間違いなく増加するだろうが、ボランティアの供給が追いつくとは考えにくいからである。

二つ目は、ボランティアはあくまで善意の市民であり、日本語教育の専門家ではないので、外国人と日本人が共生するために重要な日本語学習を担う主体としては想定できないからである。

最後の理由は、全国のボランティア団体を一元的に管轄する組織はないので、どこかの組織で優れた取り組みが行われたとしても、それが全国に波及して日本語学習の全体的な質を高める可能性は低いからである。

したがって、今必要だと考えられるのは、国家が日本語教育を管轄する組織を立ち上げて、より専門的な日本語教師を養成することと、現場の優れた取り組みを今後の教育に還元する仕組みを構築することだろう。


芝園団地とボランティア

また、芝園団地の場合、中国人住民を対象としたボランティアだけを続けても、日本人と中国人の間にある言葉の壁を取り除くことは容易ではない。

第一の理由は、中国人住民がすぐに転出してしまうことにある。正確なデータを示すことはできないが、数名の日本人住民によれば、中国人住民は大抵2〜3年で団地から引っ越すという。したがって、中国人住民が数年かけて日本語教室に通って語学力を延ばしても、学習の成果を団地で披露できる可能性は高くない。

これに関連して、中国人住民が本国から両親を呼び寄せることがあり、そういった高齢者の学習支援にも難しい点がある。中国人住民は往々にして両親に子育てを手伝ってもらうようで、60代から70代前後の中国人が団地の広場で談笑する光景をよく見かける。彼らは短期滞在者だと考えられるので、そもそも日本語を学習できる期間が限られているし、長期的に日本に住む子育て世代と比べると、日本社会に適応するべく日本語を学ぶ必要性を感じにくいのではないだろうか。

第二の理由は、日本人住民に対する中国語教室が開かれていないことにある。中国人住民がすぐに団地から引っ越すならば、長く住む傾向にある日本人住民に中国語を教えた方が、団地内での言語障壁は解消しやすいだろう。しかし、私の知る限りでは今のところ中国語教室は開かれていない。もっとも、以前は団地内の公民館で中国語教室が開かれていたようである。今後の調査で詳しい経緯を明らかにしていきたい。

(文責:今岡哲哉)

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