「やさしい日本語ツーリズム研究会」インタビュー(前編)

「やさしい日本語」という言葉をご存知でしょうか?

やさしい日本語とは、日本語になじみのある外国人に理解できるように簡単に表現された日本語のことです。たとえば、平易な表現を用いることやふりがなを振ることなどがやさしい日本語には求められます。やさしい日本語は、英語にかわる日本人と外国人の共通言語として注目を集めており、日本の多文化共生を考える上で重要な概念だといえます。

今回はやさしい日本語ツーリズム研究会の事務局長・代表代行として、やさしい日本語の普及に努めていらっしゃる吉開章(よしかい あきら)さんにお話を伺いました。株式会社電通勤務の吉開さんは地元でもある福岡県柳川市において、英語などの外国語ではなくやさしい日本語で外国人をおもてなしする「やさしい日本語ツーリズム」企画を発案・実現しました。

吉開章さん


---本日はお忙しい中ありがとうございます。さっそくですが、やさしい日本語ツーリズムの原点である柳川市での取り組みについてお聞かせください。

吉開さん 観光で柳川市を訪れるのは台湾、韓国、香港のお客様がほとんどなので、英語を勉強したところで必ずしも役に立つとは限りません。むしろ、これらの地域からの観光客には日本語を勉強してる人が非常に多い、そしてリピーターが多いです。

だったら「日本語でいいじゃないか」と考えたわけです。地元の人も高齢化してますし、みんなで英語を勉強しようとか、ツールを活用しようということにはならない。だから、おもてなしは「日本語でいいですよ」と。そのかわり、敬語や方言をあまり使わないなど簡単に喋りましょうというわけです。

僕がやっている「やさしい日本語ツーリズム」はあくまでも口頭のコミュニケーションです。事前に用意できるものはできるだけ多言語で用意しておきます。相手に伝えるときには、相手の言語で分かるように伝えるのが一番いいわけですから。多言語対応は大切ですが、それを個人として実践するのは難しいので、そのときに「やさしい日本語」という可能性を実践してみましょうということです。

この考えは特に台湾、香港、韓国から地方に来るお客様には極めて有効です。これらの地域からくるお客さんはむしろ日本語を話したいと思っているので、それなら話してもらえばいいんじゃないかということです。それを地方創生という文脈で企画し、柳川市にお願いして快諾いただきました。これが始まりです(紹介動画へのリンク)。


---つまり、やさしい日本語をツーリズムに活かそうというのは吉開さんの発案なわけですね。

吉開さん そういっていいと思います。柳川市の調査を見ると、日本語を勉強したことがある人では、日本への「訪問回数10回以上」が20%以上を占め最大多数であることが分かります。つまり、日本語を勉強している人は、ひたすら日本に来てくれるわけです。だから、柳川市において「外国人が来るから英語を勉強しないといけないね」というのは違いますよね。

柳川市調査の結果(やさしい日本語ツーリズム研究会HPより)


エコツーリズムのように「日本語ツーリズム」という考え方が必要です。日本語を楽しみたい観光客もいるはずなのに、日本人はそれが信じられない。日本語を勉強していて実践したいと思う人に対して、わかりやすい喋り方で成功体験を提供しようというのはこれまで誰も考えてこなかったのです。

でも、日本に10回以上来るような人は、日本人とコミュニケーションも取りたいわけですよ。そのときに日本中が「まず英語を勉強しましょう」というのでは、鍛えるところが違います。そこの矛盾点をついたのが「やさしい日本語ツーリズム」という考え方です。


---やさしい日本語ツーリズム研究会ではどのような活動をしていますか。

吉開さん 今述べたようなビジョンを、柳川市が着目した新しい動きということで日本中に広めたいと考えました。それで、「やさしい日本語ツーリズム研究会」というネット上や講演会で啓発活動をするプロジェクトを作りました。具体的な活動としては、講演やPR動画の作成、NPOと連携したイベントの実施などを行っています。


---ツーリズム以外でもやさしい日本語の可能性はありますか。

吉開さん 対面のコミュニケーションとは違いますが、今僕が一番力を入れているのが自動翻訳との連携です。「やさしい日本語」は、相手が少しでも日本語を分からないと意味がない、と言われ続けて来ました。でも、自動音声翻訳を使えば相手が日本語ゼロでもいい。ただし、その時の喋り方が問題になります。そして、やさしい日本語の考え方は翻訳ツールに極めて有効なのです。

今後自動翻訳はどんどん実用化されていくでしょうが、日本語の構成上、ダラダラと話したり文の最後が曖昧だったりすると、翻訳の結果が悪くなります。自動翻訳に慣れている外国人が日本に来たときに、翻訳機を差し出して日本人に日本語を話させても、意思疎通ができない事態が生じるかもしれません。こういった時に、やさしい日本語の話し方をするとほぼ間違いなく大丈夫です。

今の日本には、「日本語は日本人のものだ」というようないわば「日本語オレサマ体質」があります。しかし今後の日本において、「NHKの日本語」ただ一つが正しいという価値観でなく、多様な日本語があるから寛容になりましょうという考え方が求められます。そして、従来のやさしい日本語とはちょっと違いますが、自動翻訳に対してやさしい日本語の考え方は極めて有効です。

後編へ続く)

国際移動研究会

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