自治会費集金体験記:3000円の問いかけるもの(後編)

前編からつづく)


4. なぜ集金ができないのか

結論からいえば、自治会費の集金が不首尾に終わった主な原因は実施時間が昼下がりだったために住民の多くが不在だったからであろう。しかし、在宅だった住民と会話するなかで、自治会の加入率が低迷している理由について、日本人住民と外国人住民とで異なる原因が見えてきた。


まず、日本人住民は高齢化が進んでいる。年金だけで暮らしている高齢者にとって、生活費や医療費を払ったあとで自治会に3000円を払うのは軽い負担ではない。また、自治会費を払ったとしても、各種の行事に参加する体力が無ければ、加入している意義は感じにくい。


次に、外国人住民には、自治会に参加する必要性を説明しなければならない。自治会の事務局で日本人住民や役員と話していると、自治会費は当然払うものだと考えている方が少なからずいる。しかし、外国人住民にとって自治会の存在は自明ではないし、活動内容を知らない場合も多々ある。

「自治会は、芝園団地での暮らしをより良くするためのものです。例えば、毎月川口市の広報を配ったり、防災訓練を行ったり、夏にはお祭りを開催しています。あなたも自治会に参加しませんか?」

私がこう言うと、外国人住民は参加の意思を示してくれる。

しかし、こう言った途端に、外国人住民はきっぱりと断ってしまう。「じゃあ、4ヶ月で1000円か、1年間で3000円の会費をお願いします」。

私が説明した自治会の活動は、別にお金を払わなくとも享受できる。したがって、外国人住民が所与のものに今更お金を払う気にならないのも、合理的に考えれば当然のことである。


しかも、こうした説明を外国人住民に聞いてもらうには、そもそも相手が日本語を理解できなければならない。裏を返せば、日本語が分からない外国人住民を自治会に誘うのは至難の業である。

私が訪問した家庭でも、日本語の通じない外国人住民が数名いた。一名は英語ができる方だったので、私が頑張って拙い英語で説明を試みたものの、うまく伝えることができず、最後は”No, need.”と言われてしまった。もう一名とは共通言語がなかったので、私は万策尽きてしまい、また機会のある時にお話しますと告げて辞去した。


5. どのように会員を増やすか?

こうした苦境を脱するには、まず自治会の存在を認知してもらう必要がある。そのような取り組みとして、芝園団地にあるURサービスショップでは、「芝園かけはしプロジェクト」が作成したパンフレットが配布されている。

このパンフレットでは、自治会の活動内容や団地での生活マナーが、日本語と中国語で説明されている。芝園団地に新しく住む人は、必ずこのURサービスショップに行く必要があるので、原理的には誰もが自治会の存在を認知していることになる。ただ、URがオフィシャルに配布しているものではなく、受け取りも任意である。

自治会員を増やす最も有効な手段は、自治会が数多くの交流行事を企画し、そこで生まれた人間関係を通じて地道に勧誘作業を行うことだろう。しかし、行事を企画しようとしても、自治会には人手が足りないし、会費収入が減っているので予算も立てられない。だから、自治会は既存の日本人会員向けのイベントを開催するのに終始してしまう。畑を耕そうとするのに種も鍬もないというのが、芝園団地自治会の現状である。

団地から見た風景


6. そもそも、なぜ自治会員を増やす必要があるのか?

ここまで自治会の苦境を説明してきたが、そもそも本当に自治会が必要なのか疑問に思う人も居るだろう。URが共益費で清掃業者を入れているのだし、広報誌の配布や防災訓練の実施も行政に委託してしまえばよいだろう。住民の交流行事が無くたって、誰かが生活に困ることはない。こう考える人がいるのも、別段不思議なことではない。

しかし、外国人を地域社会に包摂するのに、やはり自治会の果たしうる役割は大きいと私は主張したい。なぜなら、自治会は住民の声を吸い上げてURに伝えたり、住民が地域の行事を設計したりできる代替不可能な組織だからである。外国人住民が日本の政治に参加する機会は限られている現状、地域社会から彼らの声を発信してゆく可能性が自治会に秘められていることは、一つの希望だと私は考えている。

(文責:今岡哲哉)

国際移動研究会

京都大学の学生団体、国際移動研究会です。多文化共生元年となるであろう2019年に若者らしい発想で地域活性に貢献します。