店主の山田慶忠さんと今岡
我々が拠点としている芝園団地からほど近い、京浜東北線の西川口駅周辺エリアは近年注目を集めている。西川口は元々違法風俗店で栄えていたが、2005年から始まる一斉摘発によって、一度は街の活気が失われた。しかし、2008年ごろから街おこしの取り組みが始まり、さらに数年前から中国人経営の中華料理店が激増したことで、西川口を訪れる人は再び増えはじめている。今回は、地域の街おこしや近年の中華料理店の増加について、西川口で30年近く続く中華料理店「異味香」の店主、山田慶忠(よしただ)さんにお話を伺った。
インタビューの内容に入る前に、山田さんと「異味香」を簡単に紹介しよう。山田さんは「西川口スタンプラリー」の代表を務めている。このイベントでは、参加している店舗を回ってスタンプをいくつか集めると景品が当たる。もともとは2010年に「西川口グルメスタンプラリー」として年3回開催されていたが、2018年からは飲食店以外も参加できるスタンプラリーになった。「異味香」は山田さんが店主を務める中華料理店で1991年に開業した。山東省出身のお父様から店を受け継ぎ、今は山田さんが厨房で腕を振るう。
---本日はお忙しいところありがとうございます。まずお聞きしたいのですが、一斉摘発後、商店街の様子はどう変わりましたか?
山田さん お客さんが減ってしまいました。違法風俗店は本当に相当な売り上げがあるわけですよ。そういう店は儲かるから皆がやりたがるんだけど、結局全部潰されて、何も残らなかったんですよね。
ではどうするかという時に、西川口をグルメの街にすればいいんじゃないかという声が出始めました。ちょうどその頃、県主催のB級グルメ大会を各都市の持ち回りでやっていて、2008年には西川口でやることになったのです。それを見た西川口の商店会の青年部を中心に、自分たちでも出来るのではないかという声が出て、2009年に川口B級グルメ大会を開催しました。そのときに異味香は3位で悔しかったので、絶対に来年は優勝しようと焼きシューマイを考えました。
焼きシューマイ(1個130円)
山田さんの努力によって完成した異味香の焼きシューマイは2010年のB級グルメ大会で優勝を果たした。私たちも実際に食べてみたが、焼きシューマイは男子大学生がぎりぎり一口で食べられる位の大きさで、優しい食感の皮の中には、よく練られた餡がぎっしり入っている。熱々のシューマイを文字通り頬張って、肉汁が口一杯に広がる時ほど、我を忘れる瞬間はないだろう。
異味香がB級グルメ大会で優勝してから、街には中華料理店が増えるようになったと山田さんは語る。
山田さん 異味香がB級グルメ大会で優勝してから、中国系の不動産関係者の間に「西川口に行って中華料理屋をやると繁盛する」という情報が出回ったようで、数年前から一気に中国人経営の中華料理店が増えました。たとえば去年自分が聞いた中華料理店の数は45店舗だったのに、今は60店舗になっています。川口市にはもともと、鋳物工場の出稼ぎ労働者や都内に通学する留学生など中国の方が多いので、西川口に中華料理店ができれば、中国の方が通うようになって繁盛するわけです。
お店が集まれば集まるほど、今度はリトルチャイナということで注目を集めるようになって、メディアの取材が始まりました。今、西川口は話題としてメジャーになっていると思います。
しかし、中華料理店の増加に伴って、ごみ処理の問題も発生した。中国人店主が本来は事業者用のごみ事業者と契約しなければならないところを、収集日が決まっている一般のごみ収集場にごみを捨てていた時期があったという。そして、中国人店主とコミュニケーションを図るのにも、難しい点があると山田さんは語る。
山田さん 店の入れ替わりが激しく、長くても3年くらいで変わってしまうので、そのたびにごみ出しなどのルールを説明するのは骨が折れます。
---最近できた中国人経営の店舗と、古くからある駅前の商店会との関わりはあるのでしょうか?
山田さん 正直なところ、それほどありません。そういった交流の薄さをなんとかしなければいけないと思って、スタンプラリーに取り組んでいます。今のところは商店会が中心ですが、商店会以外にも広げようと考えています。さらに、旧来の商店会内部も、通り会というさらに細かい単位に分かれているのですが、その枠を超えてイベントをやっていこうと思っています。
---商店会の方で、新しくできた店舗に勧誘などはされていますか?
山田さん それほどしていません。やはり頻繁に店舗が変わってしまうからです。新しい店舗の運営がある程度落ちついたときに、初めて商店会から声をかければいいというのが基本的な考え方です。新しくできた店舗の方でも、商店会に入るのにためらうことが多いようです。
ですから、商店会に加盟していない店舗と接点を持つためにも、一商店会の規模を超え、西川口全体でグルメラリーをやっています。グルメラリーは2010年から毎年3回行なっているのですが、昨年から飲食店以外の様々な業種の店舗も参加する「西川口スタンプラリー」に拡張しました。今年も開催予定です。
山田さんはスタンプラリーの参加店舗数を増やすため、西川口の各商店会に参加費用の補助を依頼している。「異味香」が所属している南通り会では、本来ならば3000円の参加費用がかかるところを、商店会が2000円の補助を出すことで、会員は1000円の負担で参加することができる。商店会によって補助金の額は異なるが、山田さんの依頼によって、今年からは多くの商店会から補助金が出ることになった。去年の参加店舗は85店舗だったので、今年は100店舗を目指している。ただし、山田さんがグルメラリーに参加した店舗を商店会に誘っても、全店舗が加入するわけではないという。
中国人が経営する中華料理屋が増加するのと同時期に、西川口には中国人の若者の姿が多く見られるようになった。最後に、こうした街の変化がお店にどのような影響を与えたのか、山田さんに伺ってみた。
---最近増えている、留学生などの中国出身の若年層はお客さんとして来店されますか?
山田さん 私の店にはそれほど来ないですね。10年以上前は中国出身者の店は少なかったので、中国からのお客さん同士が異味香を待ち合わせ場所にして成田から来ることもありました。ですが、中華料理の選択肢が増えたので、今の若い人は、上海の人なら上海の店、福建の人なら福建の店に行くのです。私の父は山東省出身なのですが、そもそも山東省の人はあまり日本には来ないので、店には若い人はそれほど来ません。うちに来るお客さんも、十数年前は中国人と日本人が半々でしたが、今は日本人の方が多いです。
---本日はたくさんのことを教えていただき、ありがとうございました。
(文責:今岡哲哉)
後編では「異味香」のおいしい料理を紹介します。
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