【本の紹介】『団地と移民』

過度な一般化はできませんが、多くの国では、エスニック・マイノリティは住宅市場において差別されています。それゆえ、マジョリティに比べると入居の際国籍やエスニシティを問わない、団地などの公共賃貸住宅に住む割合が高いです。

これは日本でも見られ、2015年国勢調査によれば、外国籍住民を含む世帯の公共賃貸住宅入居率は9.5%で、日本国籍住民のみの世帯の5.4%よりも高いです。もっとも、年齢構成や年収の違い(日本国籍住民の方が、年齢構成が高い)もあるはずなので、国籍がどの程度住居形態に影響しているのかは定かではありませんが、外国籍住民は日本国籍を持つ人たちよりも公共賃貸住宅への入居率が高いことは事実です(平成27年国勢調査「住居の状態」および「外国人」)。


先月発売された安田浩一『団地と移民』では、三章から六章で、国内外の団地に住むエスニック・マイノリティの現状を描いています。

三章では私たちがお世話になっている芝園団地、四章ではパリ郊外の二つの団地、五章ではいわゆる「原爆スラム」跡地に建てられ、現在では中国からのニューカマーや、中国残留孤児の住人もいる広島の基町団地、六章では日系ブラジル人の集住地として有名な愛知県の保見団地をそれぞれ取り上げています。

芝園団地も含め、日本の団地では若い外国籍住民と高齢の日本国籍住民が一緒に住んでいて、地域の方々が相互交流のために尽力していますが、著者はそういった当事者の方にインタビューして、団地の歴史を振り返っています。


個人的には四章のパリ郊外の、ほぼ100%の入居者がエスニック・マイノリティであるサルセル両団地への取材が本書の目玉かと思います。パリ郊外の団地は映画などでも取り上げられるので、フランスに縁がなくとも存在は知っているかもしれません。

しかし、本書で指摘されている通り、映画や報道などでは「マイノリティーの集住地で、何が起こるかわからない場所」というふうな偏見がそのまま描かれている面があります。日本語で書かれた一般書で、そういったバイアスから自由になろうと努めているものはあまりないので、本書はその点で貴重といえると思います。

(文責:佐藤慧)

国際移動研究会

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