【本の紹介】『ふたつの日本』【おすすめ】

このサイトでは、国際移動に関する書籍の紹介も行なっていきます。第一回は、先週発売された望月優大『ふたつの日本』(講談社現代新書)を取り上げます。

移民関係の話題は毎日のように報道されていますが、生まれも育ちも日本で知り合いも全員日本人、というような人にはなかなかピンとこないというのが正直なところかと思います。

実感としてわかりにくいというのに加え、話題になっているトピックが広範囲にわたっていて、基礎知識を把握するのも難しい面があります。移民政策について網羅的に書かれた一般向けの書籍がないことも追い討ちをかけています。

本書はまさにその待望されていた移民政策に関する包括的な一般書といえます。在留資格、国籍別外国人数の変遷、地域による差、いわゆる「単純労働者」問題、技能実習生・留学生の現状、オーバーステイと収容問題、出入国管理、新在留資格「特定技能」や「日系四世」などについて、政府統計をもとに解説しています。


特筆すべきは第2章で「日本に移民は何人いるのか」という、誰もが抱く素朴な疑問に答えを出そうとしている点です。移民に関する国際的に共通の定義はないのですが、著者は妥当と思われるいくつかの基準を採用して、2018年6月末時点での移民の人口を計算しています。

それによると、もっとも狭義の、在留資格「永住者」と「特別永住者」を持つ人々だけをカウントした場合は約109万人、さらに、その他の在留資格を持つ人々、非正規滞在者(いわゆるオーバーステイ)と帰化者などの「移民背景の国民」を加えるとその数は約400万人にのぼり、日本全体では3%超を占めます。

この「400万人」という明確な数字を出しているところが、本書の素晴らしいところだと思います。もちろん、この計算自体は、政府統計を使えば誰でもできるのですが、意外とはっきりした数字が出ていない現状を鑑みると、非常に貴重で重要な記述だと思います。


本書でも指摘されている通り、日本の移民政策は、「労働力は欲しいが定住はしてほしくない」という姿勢を貫いています。そのために、少なくない数の外国人が経済的困窮や人権侵害を経験しています。このまま突き進めば、日本はエスニシティによって経済的・政治的にますます大きな格差が生じる社会になってしまいます。

それを防ぐためにも、著者が本書の最後で触れているように、移民を包摂する新たな「体制」(ただ政策というのみならず、社会全体として移民を包摂する枠組みのことだと私は理解しました)が求められています。

(文責:佐藤慧)

国際移動研究会

京都大学の学生団体、国際移動研究会です。多文化共生元年となるであろう2019年に若者らしい発想で地域活性に貢献します。